GPS信号のリアルタイムシミュレーション
でできること

発表日: 2015年04月14日

シミュレーションが、実車でのテストを上回ることはできるでしょうか。GPSシミュレーションとは一体何であり、それを用いることで何ができるのでしょうか。

Jeff Warra
技術スペシャリスト
dSPACE Inc.

Bob Peaseの記事はよく読んでいましたが、同氏の記事はいつも「この○○ってやつは一体なんなんだ?」というような書き出しで始められていました。Bobはアナログの第一人者です。彼は、合理的で費用対効果の高い初の量産用オペアンプの製作に取り組みました。当時伝説であったBobに敬意を表して、このタイトルでブログを開始します。私がこの話を持ち出すのはBobが2011年に自動車事故で亡くなったためです。自動車同士の衝突をなくすという自動車業界の希望は現実のものとなり始めています。この希望は未来のコンセプトではなくなってきており、今日では、世界中の研究開発ラボでその方面でそれを実現する取り組みが行われています。

2013年におけるNHTSA1の報告によれば、車両衝突事故件数は570万件、死亡者数は32,719人、負傷者は230万人を数えます。これらは決して小さな数字ではありません。家族、友人、および子供たちのためにも、私たちは先進運転支援システム(ADAS)を将来的に発展させることのできるさらなる革新的な技術を開発する義務があります。
しかし、そもそもGPSシミュレーションとは一体何でしょうか。なぜ自分に関係があるのでしょうか。なぜラボでGPSをシミュレートする必要があるのでしょうか。それで何ができるのでしょうか。私はこれらの質問にすべて回答し、GPS測位データの実世界での例やラボ環境での例をいくつか提示したいと思います。

最近のGPS受信機は、電話、アプリ、写真、自動車だけでなく、資産や兵士なども含め、あらゆる場所やモノに搭載されています。地図を作成するための研究や地図製作の現場は今、急速に変化しています。また、新たなシステムテクノロジにおいて、地図データの利用は拡大しています。分解能10 cmの高精細マップをもたらすこのテクノロジは、自動車業界での燃料節減や人命救助のための先進的テクノロジの開発に役立っています。さらに、自動車がカーブに達する前にヘッドライトを調整して夜間の曲り角周辺を見やすくしたり、長い坂道が近づくタイミングを知らせることでトランスミッションを最適にシフトできるようにするなど、新たな研究開発も進んでいます。

これらの新しい車両機能は、高精細地図データをGPS位置情報と融合することによって実現します。また、自車両と交差点との間の通信や、車両の相互通信も可能になります。これにより、モビリティ業界の次世代の技術革新が実現します。車両に高度な経路予測アルゴリズムを追加し、自車の正確な位置を他の車両にブロードキャストすることにより、自動車どうしの出会い頭の事故を避けることができます。これにより、今後数えきれないほどの人命を救うことができます。

ラボでGPSをシミュレートする必要があるのはなぜでしょうか。それは当然だからです。GPSシミュレーション技術自体はそれほどコストをかけずに利用できるようになってきています。当社では、GPS信号が車輪速センサやステアリング角センサとは異なる必要がある理由をラボでシミュレートしています。ラボでテストを行う理由は、開発中のシステム、特性、および機能が多くの条件下で安全かつ正確に動作するのを保証するためです。

また、ラボでのテストでは、実際のテストコース上では危険となり得る仮想的なシナリオを作成することもできます。一度シナリオが作成できると、ラボでそれらのテストを繰り返し実施してアルゴリズムの変更を正確に比較できるようになります。これにより、あらゆる制限やシステムの望ましくない特性をより深く理解することができます。これがラボを利用する大きな利点です。たとえば、衝突確率の高いテストを多数実施できれば、実際のテストコースで車両の試乗を行う前に、ラボやテストベンチでの妥当性確認を完了しておくことができます。これにより、コース上でのテスト時間の短縮が可能になります。これらはすべて、システム設計の信頼性向上にも役立ちます。

システム全体としての反応の妥当性確認

試験における最初の基本的なルールは、未知の要因によるばらつきを制限することです。システム機能の妥当性を確認する際は、バックトゥバックテストの実行時の変動をできる限り制限する必要があります。これは、テストの最後に認められる差異はテスト中に適用した変動のみであり、それ以外の変動は一切ないことを保証するためです。システムにおいては、信頼性および再現性に優れていることが極めて重要です。上空のライブGPSブロードキャスト信号とは異なり、ラボでのGPSシミュレーションは、この信頼性と再現性を提供します。

上空のライブ衛星とは異なり、ラボでテストする必要のある機能には次のようなものがあります。

  • 位置精度:
    • 静的特性と動的特性の両方に再現性テストを実施することで、さまざまなGPS受信機やそのチップセットを容易に比較しながら、信頼性を高めることができます。
  • 追跡、ナビゲーション、およびガイダンス情報の取得感度:
    • アプリケーションで使用する場合、衛星の測位およびロックを維持するのに必要な出力レベルはどの程度か。
  • 衛星の測位およびロックの再取得:
    • 峡谷、高層ビル、トンネル、屋内駐車場などによる信号損失からシステムが回復するのにどれくらいの時間がかかるか。これはユーザ体験にどのような影響を与えるか。
  • フィルタの設計、適合、デバッグ:
    • フィルタは、位置の段階的変化にどのように反応するか。プログラムによって軌道を段階的に変更し、ナビゲーションフィルタおよび推定される軌道の対称性や位相コヒーレンスを確認します。システム全体の応答を比較できるようにする必要があります。軌道を段階的に変化させる方法は、都市部や峡谷地域のライブ衛星放送で見られるようなマルチパス障害をプログラムによって生み出す方法です。
  • 出力障害:
    • アルマナックとエフェメリスのダウンロード中に出力障害が発生した場合、システムはどのように反応して回復を試みるか。システムは回復するか。
    • 走行中のリセット時、つまり車両が道路を走行している間にイグニッションをオフにしてからオンに戻した際に、システムはどのように反応するか。システムが正常動作後、測位およびロック情報を再取得するまでにかかる時間はどれくらいか。障害の間にフィルタをリセットさせるかどうか。この場合、位置情報とナビゲーションマップの情報をどのように一致させるのでしょうか。
  • RF干渉 - 大気、マルチパス、電波妨害:
    • マルチパス障害に対して、システムはどのように反応するでしょうか。GNSS受信機は、建物や構造物の反射面からまったく同一の衛星信号(ゴーストもしくはファントム信号と呼ばれるもの)を受信する可能性があります。システムはどのようにフィルタし反応するか。

ライブ衛星とシミュレートされた静的位置を比較した偏差マップ

ここでは、u-Blox EVK GNSSレシーバ2を使用してラボのGPSとライブ衛星との標準偏差を示した2つの静的位置偏差マップをご紹介します。このキャプチャプロットの全体の長さに対して、EVKの測位モードは3D/DGPSでした。

画像はライブ衛星から約1.5 mの精度で撮影した静的位置の偏差を示しています。

写真は、GPSシミュレータを用いたラボ環境のGPSシミュレーションにおける標準偏差が約5 cmであることを示しています。

私の意見では、目的に沿ってシステムをテストするには、テストシナリオの自由度を制限することがベストな方法です。この方法は、システムから特定の側面および結果を分離するうえで有用です。これにより、従来のアルゴリズム開発に比べてより簡単に開発をすることができます。

プログラムによって出力を変化させることでGPS受信機の測位とロックをテストします。

以下は、GPSシミュレータのRF電力出力をグラフに示したものです。別の画像は、5秒から25秒までの時間に表示された各GPS衛星の衛星出力とその結果低下したナビゲーション測位(青)および有効な3Dナビゲーション測位/ロック(緑)ステータスを、ナビゲーションパスのビジュアル表示との対比で示しています。
これで確認できるように、衛星の出力が変わると、ナビゲーションパスの出力に異常が知らされます。

GPSシミュレータのRF電力出力を示したグラフ

この画像は、5秒から25秒までの時間に表示された各GPS衛星の衛星出力とその結果低下したナビゲーション測位(青)および有効な3Dナビゲーション測位/ロック(緑)ステータスを、ナビゲーションパスのビジュアル表示との対比で示しています。

今、将来の革新的な機能が開発されています。お客様のテストラボは、この課題にすぐに対処できますか。

2013年の衝突事故の概要: http://www-nrd.nhtsa.dot.gov/Pubs/13WPPP.pdf
u-Blox、u-Centerソフトウェア: http://www.u-blox.com/en/

その他の情報

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