発表日: 2015年11月16日 |
Lukas Kalinowski、プロジェクトマネージャ、dSPACE Inc.
もしかしたら気付いていないかもしれませんが、このブログを読んでいる方々は、今日、既にパワーエレクトロニクスを使用していると言ってまず間違いありません。
基本的には、パワーエレクトロニクスとは、電力源の変換に特化したエレクトロニクスを指します。パワーエレクトロニクスは、パソコンや携帯電話用充電器など、多くの電子機器の至る所に存在します。
自動車業界を見た場合、ハイブリッドカーはかなり長い期間存在してきました。ほぼすべての自動車メーカーが追い求めている最新のトレンドは、完全な電気自動車です。また、完全な自動運転車両も目標であり、各メーカーは自動車に電動パワーステアリングを実装するなど、運転支援システムの向上を図っています。
そのため、こうしたパワーエレクトロニクスや、関連する電子制御ユニット(ECU)に対する需要は高まっており、それらの高品質な開発を実現するテクノロジが必要となっています。その必要性が特に高まっているのは、パワーエレクトロニクスシステムの検証が最優先事項である運転支援システムやさまざまなセーフティクリティカルなアプリケーションにECUなどを統合する場合です。
HIL(Hardware-in-the-Loop)シミュレーションは自動車業界の標準として実績があり、HILによるパワーエレクトロニクスのシミュレーションは現代の開発プロセスにおける重要な要素となっています。
HILシミュレーションでは、エレクトリックコンポーネントの挙動を実際のECUと組み合わせて再現するためのプラントモデルが不可欠です。信頼性の高いテスト結果を得るには、これらのモデルはリアルタイム対応で、かつ実際の挙動を反映できるものである必要があります。プラントモデルを実装する方法は複数ありますが、私はSimPowerSystems™とリアルタイムアプリケーションとを組み合わせて使用する方法に焦点を当てたいと思います。
図1のように、SimPowerSystems™を使用したモデルベースの手法を用いると、エンジニアはブロック指向の数学モデルを扱うことなく、トポロジ指向の設計を通じて変圧器、ダイオード、スイッチなどの電子部品を用いてモデルを組み立てることができます。これにより、容易にモデルをオフラインでシミュレートできるようになります。
図1:簡単なSimPowerSystems™モデルの例
図2のように、トポロジ指向のモデルでは、電気回路を微分方程式に変換し、方程式の離散化を実行して行列にする処理を行います。
図2:SimPowerSystems™によるモデルから方程式への変換
また、これは図3に示すように、スイッチやダイオードなど、個々のコンポーネントごとに1つの微分式を解いてそれぞれの切り替え状態を実現することでもあります。その結果、総数が2^nの行列(nはモデル内のスイッチの総数)が得られます。たとえばB6ブリッジインバータでは、2^6 = 64個の方程式が得られます。
図3:SimPowerSystems™により、個々のコンポーネントから切り替え状態ごとの微分方程式に変換
エンジニアが直面している問題は、リアルタイムアプリケーションでこれらのトポロジ指向のモデルを変化させることです。PCベースのシミュレーションでは、可変ステップソルバまたは極めて小さな固定ステップサイズを使用することにより、良好な結果を得ることができます。両方のソルバオプションにより、リアルタイムシステムにおけるこれらのモデルの使用は無効化されます。さらに、SimPowerSystems™は継承されたサンプル時間を処理しないため、一部のブロックでは連続したサンプル時間が必要となります。また、行列はランタイム中にスイッチ状態が更新された場合に計算されるため、計算時間が限られており、それにより切替周波数が高くなるという問題も発生します。そのため、SimPowerSystems™は一般的にリアルタイム対応とは言えません。
dSPACE PowerlibRTを使用すると、SimPowerSystems™でリアルタイム機能を有効化できます。PowerlibRTは、パワーエレクトロニクス、SimPowerSystems™ベースのモデルのモデルキャッシング、モデル分割、およびタスク処理に適した平均値モデルが含まれたブロックセットです。
現代のリアルタイムプラットフォームはサンプリングレートに限界があるため、通常のSimPowerSystems™ブロックは切替周波数の低い、10kHzを下回る線形部品にしか使用できません。高い切替周波数に対応するため、PowerlibRTにはインバータなどの平均値モデルが含まれており、これをDS5202-EMHなどのdSPACE I/OボードからPWM計測に接続することができます。これにより、実際の電子制御ユニット(ECU)からのゲート制御値をループ内に統合することができます。PowerlibRTのタスク処理では、ECUのPWMゲート信号を読み込む場合に必要なタスクをトリガすることができます。
PowerLibRTのモデルキャッシングを使用すると、1つのモデルステップサイズ内で行列の量を計算する場合のパフォーマンスが向上します。これは、計算したモデル状態をモデルのコンパイル時に格納することにより、離散化した行列がリアルタイムプロセッサのRAMに保存されることを意味します。そのため、実行中にこれらの状態を計算する必要がなくなり、リアルタイムプロセッサでの処理時間が短縮されます。
PowerlibRTのモデル分割を使用すると、微分方程式を分離することにより、リアルタイム機能をさらに向上させることができます。図4の回路図を検討すると、PowerlibRTの青いモデル分割ブロックがない場合、行列サイズは2^8 = 256エレメントになります。モデル分割により、行列サイズは2^6+^2 = 68エレメントになります。この結果、モデルキャッシングでの格納スペースが大幅に削減されます。
図4:PowerlibRTによるモデル分割の例
PowerlibRTは、リアルタイムハードウェアにSimPowerSystems™モデルを実装するための新たな方法を提供します。dSPACE I/Oボードと組み合わせてHIL環境全体に統合し、ECUに対するテストを実施することができます。
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