昨今の自動車業界における電動化の潮流にしたがい、パワートレイン開発では電動化に対応したシステムへの適応が急務となっています。特に適合工程は複雑化の一途を進んでいます。トヨタ自動車はこれに対してdSPACEの高度な自動化ソリューションにて効率化を実現します。
テスト環境に求められる要件:統合的な自動化プラットフォーム
適合および評価のフロントローディング、効率化、生産性向上を達成するためには、次の2要件が必要不可欠です。
- 多様なパワートレイン関連のテストベンチでの試験方法やその自動化を共通化して実行できること
- さまざまなテストベンチに柔軟に統合できるテストベンチ自動化プラットフォームであること
テスト効率化の課題
テストベンチで効率的に作業するには、異なるメーカーのテストベンチや種々の計測機器に対してもリモートで制御できること、自動化が可能であること、そしてテストシーケンスを簡単かつ柔軟に変更または作成可能であること、この3点が重要となります。テストベンチの開発者である平氏は、「テストチームを、多くの手動によるオペレーションから解放するツールでサポートしたかったのです」と語り、「多くのテストにおける運転モードは数種類にカテゴライズすることができ、ベースからの変更は、日常的に簡単かつ迅速に使用できる必要があります」と述べています。そのため、平氏はテストベンチでのオペレーションを分析、分解、再構築し、次の3つの手順への集約と自動化により汎用的かつ応用性のあるオペレーションフローを実現しようと試みました。
- ECUの動作(ECUソフトウェアのRAM変数への書き込みや計測など)
- ドライバーの動作(加速、ブレーキ、シフト操作)
- テストベンチの動作(ローラー/ダイナモメータの回転速度など)
トヨタ自動車では、これら3つの要件を満たしつつ、汎用的かつ拡張性の高いプラットフォームを探していました。
テスト自動化ソリューションの評価
テストベンチは各社独自の自動化ソリューションを有しています。そのため、独自規格での設計や高価な価格設定、カスタマイズ性の低さがネックです。dSPACEの自動化ソリューションツールチェーンであるSYNECTとAutomationDeskの組み合わせは、その課題を打破します。このツールチェーンには以下の利点があります。
- ASAM準拠の標準的なインターフェースでの環境の統合性
- 出力データフォーマットなどの高い汎用性
- 自動化機能のリーズナブルな価格帯での追加
- 汎用性および多用途に利用可能なdSPACEプラットフォームとの高い連携性
- クライアントサーバ形態によるテストシナリオの共用化、再利用化
同社のテストベンチメインユーザである関本氏は、「テストベンチの自動化ソリューションとしてAutomationDeskとSYNECTを使用することに成功すれば、他のソリューションの数分の1のコストで、テストに必要な柔軟性を得ることができます」と述べています。
選択したテスト自動化ソリューションの実装
テストセットアップでは、AutomationDeskを使用したテストベンチの自動化が実証されました。テストを成功に導いたアイデアは以下の通りです。
- AutomationDeskの特徴である高いASAM規格への適応性を活用し、XCP、ASAP3、XIL MaPort、ODSなどのASAM規格にてサードパーティプラットフォームとの標準インターフェースをライブラリ化し運用
- テストシナリオとパラメータの分離を実施し、再利用性が高く汎用性のあるテストテンプレートを作成
- テストベンチの実オペレータへのユースケースに関するヒアリングを通して、オペレーションをECU操作、ドライバー操作、テストベンチ操作への層別、必要十分な標準的なテストシナリオへの作り込みを実施
評価が成功した後、この自動化は現在、同社のいくつかの異なるテストベンチへも適宜使用されています。これらには、パワートレインテストベンチおよびシャシダイナモメーターが含まれます。平氏は、「複数のテストベンチでAutomationDeskを使用すると、強力で特に費用効果の高いテストベンチの自動化が可能になります」と述べています。
効率的なテスト管理
同社では、テストベンチでのオペレーション自動化がゴールでなく、統合的な開発プラットフォームの構築が目的でした。平氏は、さまざまなテストベンチにおける開発プロセス自体をより効率化させるため、dSPACE SYNECTによる開発プロセスの見直しをはかりました。
- SYNECT Test managementによるテストの計画実行および管理の仕組みを構築
- SYNECTとAutomationDeskをPythonスクリプトで拡張することにより、テスト登録からテスト計画作成、テスト実行までのプロセスをエンドユーザレベルで実施できるインターフェースを構築
- SYNECTによりオフライン環境での作業:テスト登録、計画作成とオンライン作業:テスト実行を分離し、テスト準備とテスト実行の並列化、テストの連続実行を実現
- SYNECTクライアントサーバ設定を使用して、(テストシナリオやテスト計画から派生した)テスト資産の共有と再利用を行えるようにしました。
関本氏は、「各テストベンチの駆動シーケンスは類似しているため、テストベンチ間で可能な限り簡単に共有できることは難しくはありませんでした」とし、「SYNECT Test Managerで、テストに携わるステークホルダーのプロセスを層別化、並列化し、SYNECTを軸としたテスト自動実行をリモートで制御することで効率的な試験運用ができるようになりました」と述べています。
調査結果と展望
AutomationDeskとSYNECTに基づく強力な自動化ソリューションを使用すると、テストを定義し、継続的なテスト実行中にテストの進行状況とステータス(合格または不合格)を追跡するのが簡単です。便利なグラフィカルユーザインターフェースにより、テストシーケンスの再配置、テストシーケンスの繰り返しと組み合わせの作成、およびそれらの明確な視覚化が特に容易になります。テストシーケンスとテストパターンの簡易な変更は、1か所で一元的に行うことができます。これらの迅速なテスト変更により、日常のテストが手軽になり、テストの深さが増します。またテスト工程に携わるステークホルダーとの連携性も大幅に上がります。したがって、トヨタ自動車ではこれらの特徴を自身のプロセスへ最大限に反映、活用し、彼らの命題である適合および評価のフロントローディングに成功しています。また現在その実績により追加のテストベンチへの適応と拡張を進めています。
トヨタ自動車のご厚意により寄稿