車両の電動化には、今なお解決すべき多くの課題があります。その1つは、長距離走行が必要な商用車にどのように電気エネルギーを継続的に供給するかという問題です。燃料電池テクノロジを主力とするShanghai Fuel Cell Vehicle Power System社では、燃料電池ソフトウェアの開発や妥当性確認を効率的に行うためにdSPACEのシミュレータを使用しています。

水素は21世紀の最もクリーンなエネルギー源とみなされています。そのため、電気エネルギーを水素から得る燃料電池テクノロジは、自動車業界の多くの企業から未来志向のエネルギー供給方法だと考えられています。これは特に、要件が多種多様で効率面においても基準を課せられる商用車に該当します。テクノロジ企業であるShanghai Fuel Cell Vehicle Power System社(略称Shangran Power社)は、産業メーカーへの燃料電池システムの供給に取り組んでおり、2001年以降は出力範囲40 kW~55 kWのシステムを市場に提供しています。同社のHILテストエンジニアであり、HILテストで使用する燃料電池コントローラやHILシステムの開発と保守を行っているZhang Lingxia氏は、同社の最重要目標について、

「特に商用車の分野では、パワートレインの電動化に関して多くの要望があります。そのため、当社の新しい高性能燃料電池システムでは、まさに商用車に合わせて開発されたエネルギー供給ソリューションを実装したいと考えています」と述べています。

同社の新しい燃料電池システムはSTART-300Eと名付けられ、次の要件を満たすよう設計されています。

  • 商用車の将来における動作条件をも考慮にいれて特性が設計されていること
  • システムの水素消費量が極めて微量であること
  • 容易に統合できる小型設計であること
  • 信頼性が極めて高く、電力を安定して供給できること

開発およびテストコンセプト

これらの特性を実現するには、強力なコントローラと適切な燃料電池コンセプトが組み合わされて最適な電池動作が保証されていなければなりません。そこでShangran Power社は、特にモバイルアプリケーション向けとして優れた特性を備えている高分子電解質燃料電池を開発するよう決断し、燃料電池ハードウェアと並行してコントローラソフトウェアも開発することにしました。その際必要になったのが、コントローラの動作方法に関する情報と、最大限に合理化された設計プロセスでした。同社は適切な解決策のリサーチに踏み出しました。

電気および電子制御部門のマネージャであるLiu Fengwei氏は、「当社の開発者は制御アルゴリズムの新しいリビジョンの状態をテストし、それらの効果を評価したいと考えていました。また、ハードウェアを開発中だった当社は適切な開発およびテスト向けソリューションを探しているところでもありました。さらに、そのソリューションを最終的な電子制御ユニット(ECU)のリリーステストにも使用できればという思いもありました」 と電気および電子制御部門のマネージャであるLiu Fengwei氏は述べています。

そして同社がシミュレーションベースの手法についてdSPACEに問い合わせたところ、dSPACEが燃料電池のシミュレーションやコントローラの妥当性確認向けの一連のソリューションを取り揃えていることが判明したのです。

シミュレーションでは、燃料電池のプロセスを高精度で確認できます。

発電用燃料電池を使用したパワートレインの構造を ASM でモデリング

シミュレーションが成功への鍵
dSPACEのHILシミュレータを用いて開発および妥当性確認を行った燃料電池の完成画像

シミュレーションが成功への鍵

Shangran Power社では、4名の開発者がHILシミュレータを使用していますが、全員がテストシステムを十分使いこなすには、コミッショニングを含めて約2ヶ月かかりました。もっとも現在はこのシステムは日常業務の一部として難なく活用されています。同社がHIL(Hardware-in-the-Loop)シミュレータベースのASM燃料電池シミュレーションを日常的なテストに採用するにあたっては、動作領域全体を自動的に検証する最終受入テストでこのシステムを評価する必要がありました。このテストでは、シミュレーションが全体を通じてすべての安全領域に対応しており、制御ソフトウェアで設定およびチェックされたすべての制限範囲内で動作が可能ということが確認されました。

コントローラのソフトウェアログに「出力レベル違反」や「シャットダウン条件障害」などのエラーコードがなかったことからも、これは明らかでした。Zhang Lingxia氏は実現された効果について、 「HILシミュレータを使用することにより、テストおよび妥当性確認時の効率だけでなく、制御ソフトウェアの信頼性も大幅に向上しました」 とし、 「dSPACEのテストソリューションには非常に満足しています。このソリューションは、燃料電池の総合的な機能テストにおける当社の要件を満たしているからです。」と述べています。 このシステムにはシミュレータハードウェアやシミュレーションモデル向けの複数の設定オプションも用意されています。また、それ以降のステップで妥当性確認を行う場合は、電気的欠陥テストを用いることができます。同社では、強力なテストシステムを導入したことにより、商用車を電動化するために必要な信頼性の高いコンポーネントを提供できる体制が整いました。

(Left) シミュレーションでは、仮想燃料電池の重要な変数がわかりやすく図示されます。

(Right) 極めて高精度にシミュレートされたセル内の電気化学プロセスの正確なパラメータ設定および解析

Shanghai Fuel Cell Vehicle Power System社

Shanghai Fuel Cell Vehicle Power System社(以下「Shangran Power社」)は、国家863計画の電気自動車重大特別プロジェクトに沿って2001年に上海で設立された企業であり、同プロジェクトの製品化や産業化を実現するという目標の達成に向けて取り組んでいます。

高分子電解質燃料電池

高分子電解質燃料電池は、プロトン交換膜燃料電池または固体高分子形燃料電池とも呼ばれる低温燃料電池であり、水素(H2)と酸素(O2)を利用して、化学エネルギーを電気エネルギーに変換するものです。電力効率は約60パーセントですが、これは動作点による変動があります。通常、固体高分子膜は電解質として作用します。複数のセル(10個~数百個)を連結していわゆるスタックを作成することで、技術的に必要な電圧を取得しています。

Shanghai Fuel Cell Vehicle Power System社のご厚意により寄稿

著者について:

Liu Fengwei

Liu Fengwei

Manager of the electrical and electronic control department, Shanghai Fuel Cell Vehicle Power System Co., Ltd.

Zhang Lingxia

Zhang Lingxia

HIL test engineer, Shanghai Fuel Cell Vehicle Power System Co., Ltd.

dSPACE MAGAZINE、2021年11月発行

その他の情報

  • 水素燃料電池
    水素燃料電池

    電気自動車用燃料電池テクノロジの開発とテスト

製品情報

  • ASM Fuel Cell
    ASM Fuel Cell

    ASM Fuel Cell is a model library for the real-time simulation of a proton exchange membrane (PEM) fuel cell system and makes it possible to set up a realistic test environment for the ECU under test.

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