自動運転には機械学習ベースの機能が必要ですが、そのような機能を継続的に開発するには、データパイプラインを完全統合した形のデータドリブン開発ソリューションが最適です。各種の開発プロセスでは、フォーマットやインターフェースの不整合に代表される多数の問題が存在しており、それがプロジェクトの遅延の一般的な要因となっています。dSPACEでは、このようなデータパイプラインに関する課題への適切な対処を可能にする優れたテクノロジ、手法、および卓越した専門技術を提供しています。

現実世界は複雑で、それに対応する車両環境の複雑さも、際限のないものです。「if-then-else」形式の単純な論理比較といった従来型の問題解決手法では不十分であり、必要な条件も無数に存在します。つまり、自動運転車両の動作の信頼性を十分に高めるには、至極複雑な作業が必要ということです。これらの複雑な問題に対処するには、従来とはまったく異なる開発手法が求められます。その手法とはつまり、最高の精度と完成度を持った手書きのコードで問題を解決するのではなく、サンプルユースケースを用いて一般的なモデルを自動化し、それをパラメータ化した設定として実装することに重点を置く手法です。トレーニングと表現されるこのような方法では多くの場合、より多くのデータを供給するほど、パラメータ設定の結果が期待値と近くなり、車両の安全性が向上します。自動運転車両の実用化においては、これは効率性の高い方法だと言えます。なぜならコードであらかじめ「森羅万象」を定義するという本来不可能な作業をしなくて済むからです。このプロセスは、「コードセントリック」ではなく、「データドリブン」または「データセントリック」の開発プロセスと呼ばれます。ここでは、既存のプロセスにデータの方向性を当てはめるのではなく、データに合わせてプロセスを調整しながら開発を行います。そのため、データ、データパイプライン、およびそれらに付随するツールが開発プロセスの中心となります。

車両の高度なデータロギング

車両の高度なデータロギング

データパイプラインの出発点は車両です。まずは実車両を用いて、開発プロセスで用いるすべてのデータを収集します。車両レベルにおけるデータの収集元となるのは、すべてのセンサ、バス、そして内部の車載センサやECUから情報を転送するネットワークです。車両およびデータ収集システムは、データパイプラインの最適化のための最初のステージであり、多くのことを実行できる場所でもあります。ここではまず、ロガー自体の車載インフラストラクチャやアーキテクチャを調整し、可能な限り高速でデータ損失のないデータをI/Oインターフェースからデータストレージに転送できるようにします。そして次に記録されたデータを選別します。データはすべてが必要になるとは限らず、本当に有益なのはほんの一部という場合があります。ということはつまり、ごく早期の段階で不要なデータを切り捨てることができれば、記憶領域や時間が節約されるということです。有益なデータのみを記録・保存すると同時に不要なデータを破棄するには、技術的に強力かつ柔軟なデータロギングシステムが必要なだけでなく、適切なデータだけを確実に保存できるよう記録および保存領域間を調整する機能が必要になります。上記の要件を満たしているのがデータロギングハードウェアおよびソフトウェア、データインジェストおよび管理ソフトウェア、および付随するサービスで構成されたdSPACE のスマートデータロギングソリューションです。このソリューションの中核となるコンポーネントは、要求の厳しいADAS/ADアプリケーションのデータロギング向けに設計されたAUTERA製品ファミリです。これには、軽量ながらも強力な開発およびロギングソフトウェアであるRTMapsや、モバイル型タグ付けアプリケーションであるRTagを組み合わせることができます。dSPACEではさらに、記録されたデータボリュームを関連するサブセットにフィルタリングおよび削減するテクノロジとノウハウも提供します。また当社の人工知能の専門技術者がいつでもお客様をサポートします。必要な際は、dSPACEやパートナー各社が専用の車両設備やデータ取得サービスを提供することも可能です。

データインジェスト – 開発者が使用するためのデータを作成

データパイプラインの一部であるデータインジェストパイプラインは、ソフトウェアエンジニアやテストエンジニアが車両から適正な品質のデータを速やかに取得できるようにするためのものです。これはデータパイプラインの第2ステージと言えます。当社はここで効率性と品質を高めるためのソリューションを提供しています。たとえば、メモリをとりわけ多量に消費するカメラのデータなどでは、データの記録中に既にそれらをインテリジェントにフィルタリングしている場合でも、データ削減の余地は通常まだ残っています。つまり高い演算処理能力を持ったソリューションで非リアルタイムの処理を行えば、さらにデータを削減できるということです。この処理にはより多くのエネルギーが必要なため、車両の外部で実施します。車両で事前にデータがフィルタリングされていない場合、データボリュームの削減に向けてこのステップで行う作業はさらに増えます。不要、破損、不完全、またはインジェストされていないデータばかりだと、効率性は向上しません。こうしたデータは容量がかさむだけで、何のメリットも生みません。このように、車両で品質をチェックしていない場合にインジェストパイプラインを実装すれば、必要な記憶域を最小限に抑えられ、コストを節減することができます。このステージでは、特に形式チェック、エラーチェック、および整合性チェックなどの品質管理が行われます。データをさらに削減するには、データの内容を理解することが必要です。そのためインジェストパイプラインでは、データの処理と一定のメタ情報の抽出も行われます。これにより、フィルタリングの簡素化やデータの削減が可能になるだけでなく、検索機能の強化やデータの体系化も促され、マップの生成やセンサのプレビューによるビジュアル表示も可能になり、またデータアクセス時の応答速度も向上します。プレビュー結果は自動的に匿名化されるため、GDPR規則にも違反しません。dSPACEでは、スピーディなデータアップロードを保証するホットスワップ対応のAUTERA SSDを備えたAUTERA Upload Stationや、ネイティブな転送プロトコルと、データインジェスト用にカスタマイズされたプラグイン処理モジュール用のフレームワークを統合したIntempora社のIVSなど、総合的なデータインジェストソリューションを提供しています。このソリューションには品質チェック、冗長性の削減、プレビューの生成、およびタグ付けモジュールがデフォルトで含まれています。また、dSPACEのグループ企業であるunderstand.ai社が提供するアノテーションサービスを使用すると、極めて大容量の選択済みデータにも迅速かつ最高の品質でラベリングを行うことができます。さらに、個人情報を保護するアノニマイザとしてすべての識別可能な個人の顔やナンバープレートの99%以上を匿名化し、GDPR、APPI、CSL、およびCCPAに準拠した設計となっているUAI Anonymizerの使用も可能です。

図  1:データドリブン開発のデータパイプラインとサイクル(簡略図)

 

テスト:安全第一

自動運転車両の機能は、想定内、想定外を問わずあらゆる交通状況で適切に動作しなければなりません。実走時に運転手が頼れるのは車両および車載ソフトウェアだけであるため、自動化されたテストによりそれらは十分に検証される必要があります。ここで採用できるテスト手法には、開発段階に応じてさまざまなものが存在します。dSPACE製品では、プラットフォームに応じてこれらの手法を新しい車種のテストや認証プロセス全体にスムーズに統合するためのソリューションを提供しています。ADAS/ADにおける重要なテストおよび妥当性確認手法としては、データリプレイテスト(すなわち再処理)が確立されています。これは、記録されたセンサデータやテスト対象システムへのバスデータを再生し、グラウンドトゥルースデータに照らして出力を評価するというものです。そのようなテスト方法では、実際の運転状況から得たデータを用いて、効率性および費用対効果の高い方法で自動運転車両の挙動を分析し、車両の安全性を十分に評価することができます。また、データリプレイにはデータへのアクセスやデータの同期ストリーミングが可能という極めて重要な側面があるため、データドリブン開発パイプラインの主要な要素となります。この方法は、開発プロセスの早期の段階では純粋なソフトウェア(SW)データリプレイテストとして、それ以降のシステム統合後のプロセスではハードウェア(HW)データリプレイテストとして適用することが可能です。ソフトウェアデータリプレイテストは通常、リアルタイム性という制約がないため、リアルタイム以上に高速に実行することができます。そのため、高精度なチェックを容易に実施でき、ハードウェアプロトタイプを入手するはるか以前の段階でも実行できます。それに対し、ハードウェアデータリプレイでは、中央コンピュータやセンサECUを実装したうえで、これらをテストシステムに接続し、記録された合成データまたは実データを入力します。そのため、路上テストに極めて近い条件でハードウェア、電気インターフェース、およびソフトウェアをテストすることができます。データリプレイテストをさらに拡張するには、欠陥挿入やデータストリームの操作を行います。データリプレイテストは、クラウドサービスでの利用が増加しています。dSPACEおよびパートナー各社では、パブリッククラウド、オンプレミス、およびハイブリッドクラウドベースの卓越したデータリプレイテストソリューションを提供しています。dSPACEのデータリプレイポートフォリオには、高精度のバスおよびネットワークインターフェースを備えたモジュール型のリアルタイムシステムであるSCALEXIO、センサインターフェースを備えた強力なFPGAボードである環境センサインターフェース(ESI)ユニット、初期段階の(仮想)ECUシミュレーションに使用可能なオフラインシミュレータであるVEOS、最先端のデータ構文解析およびストリーミング用ソフトウェアであるRTMapsなど、お客様のニーズに最適なツールが多数含まれています。さらに、関心のある記録データセットに容易にアクセスできるデータ管理ソフトウェアであるIVSも提供できます。これらのツールをすべて統合すれば、何千キロメートルもの走行データや合成データを用いてさまざまなテストを24時間年中無休で実行できる、完全自動のテストソリューションが実現します。

図 2:dSPACE AUTERA ハードウェアは、最も厳しいデータ取得の要求にも対応可能です。RTMaps は、強力かつ使いやすいデータロギングソフトウェアとして、柔軟な設定オプションを提供しています。

 
データ拡張

データ拡張

ここでの課題は、過去に記録したデータで既に対応の済んだ状況を準備して自動運転車両をテストするだけでなく、実際のデータが一切存在しない、まったく新しい未知のシナリオによるテストも必要だという点です。これは、現実にはあり得ない、または危険すぎてテスト不可能な事例(コーナーケース)をテストする場合に特に重要です。このような場合、センサリアリスティックシミュレーションソリューションを使用すると、人為的に作成されたデータを用いてテストデータセットを拡張することができます。交通に関しては、トラフィックシナリオや交通環境を新規に作成するか、またはパラメータを操作して実際の交通状況から合成して作成します。テストデータセットを拡張するもう1つの手法は、記録済みのデータを用いて、リアルな動きをする交通参加者を交通状況に合成して追加する方法です。特にdSPACEおよびunderstand.ai社が開発したシナリオ生成ソリューションを実装しているdSPACE製品なら、現実のシナリオを改変することができます。このソリューションでは、実車によるテストドライブの記録をシミュレーション環境に移行し、専用のハードウェアおよびソフトウェアで何千というセーフティクリティカルかつ現実的な運転シナリオを簡単にシミュレートできます。これらのシナリオは恣意的に変更・拡張できるため、膨大な数のシナリオの実行が必要なシナリオベーステストでは極めて有用です。dSPACEのセンサリアリスティックシミュレーションソリューションであるAURELIONは、シミュレーション時のクローン作成だけでなく現実の改変にも対応した新しい強力なツールです。また、当社では開発コストを大幅に削減するための人工トレーニングデータの生成手法も提供しています。

図  3:データインジェストパイプラインにより、高品質で拡張され、匿名化された(オプション)データが開発者に届きます。

 

シームレスな統合

上述の通り、dSPACEおよびグループ/パートナー各社では、シームレスに統合されたツールを通じてデータパイプライン全体をサポートし、お客様にスムーズなデータフローを保証いたします。dSPACEの専門知識や各種ツールを利用すれば、開発プロジェクトの重大な局面においてもデータパイプラインの確実な動作を維持できます。

図  4:データセンターでのデータリプレイテスト

 

dSPACE MAGAZINE、2021年11月発行

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